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2013年7月19日金曜日

【310】敬語表現⑩まぎらわしい表現「きこす」「きこゆ」「きこしめす」「きこえさす」など

【310】敬語表現⑩まぎらわしい表現「きこす」「きこゆ」「きこしめす」「きこえさす」など

◎今回登場の敬語◎

「 きく ( 聞く ) 」[ サ四 ]( 非敬語 )
→『 聞く』,『(味わいを)試す』,『(香りを)かぐ 』

「 きこす ( 聞こす ) 」[ サ四 ]( ←「 聞く」,「言ふ 」の〔尊敬〕版 )
→『 お聞きになる』,
→『おっしゃる 』
『おっしゃる』は上代語)

「 きこしめす ( 聞こし召す ) 」[ サ四 ]( ←「 聞く」,「聞き入る」,「治む」,「飲む・食ふ」 」の〔尊敬〕版 )
→『 お聞きになる』,『お聞きいれなさる』,『感心をおもちになる』,『お治めになる』,『召し上がる 』

「 きこゆ ( 聞こゆ ) 」[ ヤ下二 ]( 非敬語 )
→『 聞こえる』,『評判になる』,『理解できる 』

「 きこゆ ( 聞こゆ ) 」[ ヤ下二 ]( ←「 言ふ」,「呼ぶ 」の〔謙譲〕版 )
→『 申し上げる』,『お呼びする』,『(手紙などをさしあげる 』

「 きこゆ ( 聞こゆ ) 」[ ヤ下二 ]( 補助動詞〔謙譲〕
→『 ~申し上げる 』

「 きこえさす ( 聞こえさす ) 」[ サ下二 ]( ←「 言ふ 」の〔謙譲〕版 )
→『 申し上げる』,『手紙をさしあげる 』

「 きこえさす ( 聞こえさす ) 」[ サ下二 ]( 補助動詞〔謙譲〕
→『 ~し申し上げる 』

「 きこえさす ( 聞こえさす ) 」[ サ四 ]( ←「 言ひさす 」の〔謙譲〕版 )
→『 申し上げるのを途中でやめる 』

「 きこえさす ( 聞こえさす ) 」[ 連語 ]( 「聞こゆ」の未然形+「さす」〔使役〕
→『 申し上げさせる 』

「 きこえあはす ( 聞こえ合はす ) 」[ サ下二 ]( ←「 言ひ合はす 」の〔謙譲〕版 )
→『 互いに心の隔てなくお話申し上げる』,『ご相談申し上げる 』

「 きこえあふ ( 聞こえ合ふ ) 」[ ハ四 ]( ←「 言ひ合う 」の〔謙譲〕版 )
→『 口々に申し上げる』,『うわさ申し上げる 』

「 きこえいだす ( 聞こえ出だす ) 」[ サ四 ]( ←「 言ひ出だす 」の〔謙譲〕版 )
→『 (内から外にいる人に)申し上げる 』

「 きこえいなぶ ( 聞こえ否ぶ ) 」[ バ上二 ]( ←「 言ひ否ぶ 」の〔謙譲〕版 )
→『 断りを申し上げる』,『ご辞退申し上げる 』

「 きこえおく ( 聞こえ置く ) 」[ カ四 ]( ←「 言ひ置く 」の〔謙譲〕版 )
→『 前もって申し上げる』,『申し残しておく 』

「 きこえかかる ( 聞こえ掛かる ) 」[ ラ四 ]( ←「 言ひ掛かる 」の〔謙譲〕版 )
→『 言い寄りもうしあげる』,『話しかけもうしあげる 』

「 きこえかく ( 聞こえ掛く ) 」[ カ下二 ]( ←「 言ひ掛く 」の〔謙譲〕版 )
→『 言葉をかけもうしあげる 』

「 きこえかはす ( 聞こえ交はす ) 」[ サ四 ]( ←「 言ひ交はす 」の〔謙譲〕版 )
→『 互いに言葉をかわしもうしあげる』,『互いに手紙をさしあげ合う 』

「 きこえかへす ( 聞こえ返す ) 」[ サ四 ]( ←「 言ひ返す 」の〔謙譲〕版 )
→『 ご返答申し上げる』,『お断り申し上げる』,『反対申し上げる 』

「 きこえかよふ ( 聞こえ通ふ ) 」[ ハ四 ]( ←「 言ひ通ふ 」の〔謙譲〕版 )
→『 互いに手紙をさしあげる』,『言葉を交わしもうしあげる 』

「 きこえごつ ( 聞こえごつ ) 」[ タ四 ]( ←「 聞こえごつ 」の〔謙譲〕版 )
→『 申し上げる』,『わざと聞こえるように申し上げる 』

「 きこえしらす ( 聞こえ知らす ) 」[ サ下二 ]( ←「 言ひ知らす 」の〔謙譲〕版 )
→『 説明申し上げる』,『お話してお聞かせ申し上げる 』

「 きこえつく ( 聞こえ付く ) 」[ カ下二 ]( ←「 言ひ付く 」の〔謙譲〕版 )
→『 お頼み申し上げる 』

「 きこえつく ( 聞こえ付く ) 」[ カ四 ]( ←「 言ひ付く 」の〔謙譲〕版 )
→『 (心の中の思いを)申し上げて近づく 』

「 きこえつぐ ( 聞こえ継ぐ ) 」[ ガ四 ]( ←「 言ひ継ぐ 」の〔謙譲〕版 )
→『 お伝え申し上げる』,『取次ぎ申し上げる 』

「 きこえつたふ ( 聞こえ伝ふ ) 」[ ハ下二 ]( ←「 言ひ伝ふ 」の〔謙譲〕版 )
→『 語り伝え申し上げる』,『取りつぎ申し上げる 』

「 きこえなす ( 聞こえ倣す ) 」[ サ四 ]( ←「 言ひ倣す 」の〔謙譲〕版 )
→『 とりつくろって申し上げる 』

「 きこえやる ( 聞こえ遣る ) 」[ ラ四 ]( ←「 言ひ遣る 」の〔謙譲〕版 )
→『 お伝え申し上げる』,『すらすら申し上げる 』

「 きこしめしあはす ( 聞こし召し合はす ) 」[ サ下二 ]( ←「 聞き合はす 」の〔尊敬〕版 )
→『 お聞き合わせなさる 』

「 きこしめしいる ( 聞こし召し入る ) 」[ ラ下二 ]( ←「 聞き入る 」の〔尊敬〕版 )
→『 お聞き届けなさる 』

「 きこしめしつく ( 聞こし召し付く ) 」[ カ下二 ]( ←「 聞き付く 」の〔尊敬〕版 )
→『 お聞き及びになる 』

「 きこしをす ( 聞こし食す ) 」[ サ四 ]( ←「 ・・・ 」の〔尊敬〕版 )
→『 お治めあそばす 』

◎解説◎
まずは,非敬語としての「きく(聞く)」「きこゆ(聞こゆ)」の意味を把握しましょう。
「きく(聞く)」は,積極的に五感にうったえてなにかを感じ取ろうという意思(→『聞く』,『(味わいを)試す』,『(香りを)かぐ』)の意であり,
「きこゆ(聞こゆ)」は,消極的に五感が外からのものに対して感じる状態(→『聞こえる』,『評判になる』,『理解できる』)の意です。

「きこす(聞こす)」は「きく(聞く)」の〔尊敬〕版で,
「きこしめす(聞こし召す)」はさらに尊敬の意が強くなったものであると同時に『召し上がる』,『お治めになる』という意が追加されます。
「きこす(聞こす)」から派生するものとして, 「 きこしめしあはす ( 聞こし召し合はす ) 」 「 きこしめしいる ( 聞こし召し入る ) 」 「 きこしめしつく ( 聞こし召し付く ) 」 「 きこしをす ( 聞こし食す ) 」があります。

さて,また例によって脱線するけど,
これまで何度も言ってきましたが,
日本語(古文を含む)の世界は「まずは動詞ありき!」
なのです。
「主語」?「目的語」?ナニソレオイシイノ?
~という感覚なので,英語のように主語と目的語を入れ替えたら「受動態」にしよう!という発想があまりなく,
とりわけ「敬語」がからみだすと,そのあたりの感覚がかなりルーズになります。
敬意の対象があまりにもおそれおおくてそういう細かい感覚がマヒしてしまうのでしょう。
昔の貴族たちの日常会話の肉声が保存されているわけでもないので,推測でしかないわけですが,
ともかく「そういう時代だったんだ」と思っておいて間違いないはずです。

さて,なんでこういう話をしたかというと
「きこゆ(聞こゆ)」にはもともと単純に『聞こえる』という意味の動詞なわけです。
消極的に外からのものを五感が感じる状態なわけですから,
それはたとえば虫の声だったり,小川のせせらぎだったり,
現代でいえば,エアコンの音,自動車の音・・・を五感が感じるということなわけです。
ところが,これが偉い人からみれば偉くない人がなにやらあーだこーだいっているのが
「きこゆ(聞こゆ)」(→『聞こえる』)ような場合,偉い人からみればたしかに『聞こえる』んだけど,
偉くない人からみれば反対に『申し上げる』ということになる。
これば英語の感覚だとここに主語目的語の逆転があるのだから「きこゆ(聞こゆ)」を受動態にして~
なんてなるんだけど,それがない。
「きこゆ(聞こゆ)」のままで『申し上げる』という意味になる。
だもんだから,「いふ(言ふ)」の〔謙譲〕版ということにもなる。
意味としてはそこから派生して『お呼びする』『手紙などをさしあげる』が追加され,
用法としては前に動詞などをくっつけて補助動詞〔謙譲〕の役割も追加される。
さらには・・・
もともと「きこゆ(聞こゆ)」に「さす」〔尊敬〕をつけた形の「きこえさす」
自然と耳にはいってくる状態に〔尊敬〕の意味を加味したものだと考えれば
『自然とお耳に入っていらっしゃる』偉い人に対して『申し上げる』ことになるのだから
「きこえさす」自体に〔謙譲〕の敬語動詞(→『申し上げる』)の役割が生まれ,
さらには補助動詞〔謙譲〕(→『~申し上げる』)の役割も追加される。

もっとも「きこゆ(聞こゆ)」に「さす」〔尊敬〕をつけて「きこえさす」となる場合は
必ず下に「給ふ」があり,「きこえさせ給ふ」となり,
このときの「きこゆ(きこえ)」は『申し上げる』の意となり,
全体として『申し上げなさる』という意味になる。(『お聞きになる』とはならない)
「さす」〔尊敬〕があれば「さす」〔使役〕もあるのは必定。(この感覚はこれまで何度もやっていますね)
この場合は,「きこえさす」で『申し上げさせる』となる。(『聞かせる』とはならない)
そして,敬語とは関係ないけど,
「言ひさす」という動詞があり,これは『言うのを途中でやめる』という意味になる。
「さす」には『中断する』という意味がある。
この「言ひさす」の「言ふ」を〔謙譲〕にすると「きこゆ(聞こゆ)」になり,
全体として「きこえさす」になり,『申し上げるのを途中でやめる』という意になる。
このようないろんな事情があって,
「きこえさす」には 『 申し上げる 』 『 手紙をさしあげる 』 『 ~し申し上げる 』 『 申し上げるのを途中でやめる 』 『 申し上げさせる 』
という意味がある。(いろいろあって複雑ですが)

◎結論◎
長々とお読みいただきましてありがとうございました。
要するに・・・といえば

「きこす(聞こす)」は『お聞きになる』という〔尊敬〕語,
「きこしめす(聞こし召す)」は「きこす」より強い〔尊敬〕語,
「きこゆ(聞こゆ)」は本来的にはただの『聞く』だけど,
敬語となると『申し上げる』,『(~して)申し上げる』という〔謙譲〕
「きこえさす」は厄介なので一応の理解をした上『申し上げる』,『申し上げさせる』,『申しあげるのを途中でやめる』,『(~して)申し上げる』,『手紙をさしあげる』で丸暗記!!
他に「きこゆ(聞こゆ」から派生した
「 きこえあはす ( 聞こえ合はす )」 「 きこえあふ ( 聞こえ合ふ )」 「 きこえいだす ( 聞こえ出だす )」 「 きこえいなぶ ( 聞こえ否ぶ )」 「 きこえおく ( 聞こえ置く )」 「 きこえかかる ( 聞こえ掛かる )」 「 きこえかく ( 聞こえ掛く )」 「 きこえかはす ( 聞こえ交はす )」 「 きこえかへす ( 聞こえ返す )」 「 きこえかよふ ( 聞こえ通ふ )」 「 きこえごつ ( 聞こえごつ )」 「 きこえしらす ( 聞こえ知らす )」 「 きこえつく ( 聞こえ付く )」 「 きこえつく ( 聞こえ付く )」 「 きこえつぐ ( 聞こえ継ぐ )」 「 きこえつたふ ( 聞こえ伝ふ )」 「 きこえなす ( 聞こえ倣す )」 「 きこえやる ( 聞こえ遣る )」
~についてはできれば1語でも多く覚えておきましょう。

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