【308】敬語表現⑧まぎらわしい表現「まゐる」「たてまつる」・・・ |
◎今回登場の敬語◎ |
「 たてまつる ( 奉る ) 」[ ラ四 ]( 補助動詞〔謙譲〕 ) →『 ~申し上げる 』 (同じ謙譲の補助動詞に「聞こゆ」があるが, 『源氏物語』などでは、「奉る」は「見る」「聞く」「返す」「抱く」などの動作を表す動詞,助動詞「る」「らる」「す」「さす」「しむ」に付き, 「聞こゆ」は「思ふ」「恋ふ」などの精神活動を表す動詞に付く傾向があるといわれる) 「 たてまつる ( 奉る ) 」[ ラ四/ラ下二 ]( ←「 与ふ」,「遣る 」の〔謙譲〕版 ) →『 差し上げる』,『参上させる 』 「 たてまつる ( 奉る ) 」[ ラ四/ラ下二 ]( ←「 飲む」,「食ふ」,「着る」,「乗る 」の〔尊敬〕版 ) →『 召し上がる』,『お召しになる 』 「 たてまつらす ( 奉らす ) 」[ 連語 ]( 「奉る」の未然形+「す」〔使役〕or〔尊敬〕 ) →『(「す」が〔使役〕で「奉る」が〔謙譲〕のとき)差し上げさせる』, →『(「す」が〔尊敬→ここでは〔謙譲〕の強調)で「奉る」が〔謙譲〕のとき)差し上げる』, →『(「奉る」が〔尊敬〕のとき)お召しいただく 』 「 まゐる ( 参る ) 」[ ラ四 ]( ←「 行く」,「来(く) 」の〔謙譲〕版 ) →『 参上する』,『参詣する』,『入内する 』 「 まゐる ( 参る ) 」[ ラ四 ]( ←「 与ふ」,「仕ふ 」の〔謙譲〕版 ) →『 差し上げる』,『(なにかを)して差し上げる 』 「 まゐる ( 参る ) 」[ ラ四 ]( ←「 行く 」の〔丁寧〕版 ) →『 参ります 』 「 まゐる ( 参る ) 」[ ラ四 ]( ←「 飲む」,「食ふ」,「着る」,「乗る 」の〔尊敬〕版 ) →『 召し上がる』,『お召しになる』,『お乗りになる 』 「 まづ・まうづ ( 参づ,詣づ ) 」[ ダ下二 ]( ←「 行く 」の〔謙譲〕版 ) →『 参る』,『参詣する 』 「 まゐく ( 参来 ) 」[ カ変 ]( ←「 来(く) 」の〔謙譲〕版 ) →『 参上する』,『参り来る 』 「 まゐづ ( 参出 ) 」[ ダ下二 ]( ←「 出づ 」の〔謙譲〕版 ) →『 参上する』,『うかがう 』 「 まゐでく ( 参出来 ) 」[ カ変 ]( ←「 来(く) 」の〔謙譲〕版 ) →『 参上する』,『参り来る 』 (上代語) 「 まうでく ( 参出来 ) 」[ カ変 ]( ←「 来(く) 」の〔謙譲〕版 ) →『 参上する』,『参り来る 』 「 まうでく ( 参出来 ) 」[ カ変 ]( ←「 来(く) 」の〔丁寧〕版 ) →『 参ります 』 「 まゐのぼる ( 参上る ) 」[ ラ四 ]( ←「 上る(のぼる) 」の〔謙譲〕版 ) →『 (貴人のもとに)うかがう 』 「 まうのぼる ( 参上る ) 」[ ラ四 ]( ←「 上る(のぼる) 」の〔謙譲〕版 ) →『 参上する 』 「 まかる ( 罷る ) 」[ ラ四 ]( ←「 行く」,「来(く) 」の〔謙譲〕版 ) →『 退出する 』 「 まかづ ( 罷づ ) 」[ ダ下二 ]( ←「 行く」,「来(く) 」の〔謙譲〕版 ) →『 退出する 』 「 まかりあかる ( 罷り離る,罷り別る ) 」[ ラ下二 ]( ←「 あかる 」の〔謙譲〕版 ) →『 別々に退出する』,『退出して別れる』 』 「 まかりいづ ( 罷り出づ ) 」[ ダ下二 ]( ←「 出づ」,「行く 」の〔謙譲〕版 ) →『 退出する』,『参上する』,『参ります 』 「 まかりありく ( 罷り歩く ) 」[ カ四 ]( ←「 ありく 」の〔謙譲〕版 ) →『 出歩く』,『動き回る 』 「 まかりなる ( 罷り成る ) 」[ ラ四 ]( ←「 なる(=become) 」の〔尊敬〕版 ) →『 (ある状態に)なる 』 「 まゐらす ( 参らす ) 」[ サ下二 ]( ←「 与ふ 」の〔謙譲〕版 ) →『 差し上げる 』 「 まゐらす ( 参らす ) 」[ サ下二 ]( ←「 補助動詞〔謙譲〕 ) →『 (動作)~申し上げる 』 「 まゐらす ( 参らす ) 」[ 連語 ]( ←「 「参る」の未然形+「す」〔使役〕 ) →『 差し上げさせる』,『参上させる 』 「 まゐらせたまふ ( 参らせ給ふ ) 」[ 連語 ]( ←「 「参る」の未然形+「す」〔尊敬〕+「たまふ」 ) →『 参上あそばされる 』 「 まゐりつく ( 参り着く ) 」[ カ四 ]( ←「 行き着く 」の〔謙譲〕版 ) →『 到着する 』 |
◎解説◎ |
「たてまつる」とくれば〔謙譲〕の敬語動詞(→『参上する』,『差し上げる』)か, 〔謙譲〕の補助動詞(→『~(して)申し上げる』なんだけど, 例外的に,「衣」「食」「乗」関係に用いられると, 〔尊敬〕の敬語動詞(→『お召しになる』,『召し上がる』,『お乗りになる』)となる。 これに「す」〔使役〕〔尊敬〕をつけた「たてまつらす」もあるが, この場合文脈からしかるべき解釈をする必要がある。 「まゐる」とくれば〔謙譲〕の敬語動詞(→『参上する』,『参詣する』)か, あるいは単純に〔丁寧〕の敬語動詞(→『まいります』)なんだけど, これまた例外的に,,「衣」「食」「乗」関係に用いられると, 〔尊敬〕の敬語動詞(→『お召しになる』,『召し上がる』,『お乗りになる』)となる。 「まゐる」の同義語に「まうづ」があり,この場合は 〔謙譲〕の敬語動詞(→『参る』,『参詣する』)の意のみである。 「まゐる」,「まうづ」の反対語に 「まかる」,「まかづ」があり, これらは一般的には〔謙譲〕の敬語動詞(→『退出する』)となる。 ただし, 「下の場所」から「上の場所」に行く場合は,「まゐる」,「まうづ」, 「上の場所」から「下の場所」に行く場合は,「まかる」,「まかづ」 が使われるのが普通である。 下→上とは例えば,ごく普通の場所から貴人のお屋敷に行く場合,ごく普通の場所から神社仏閣を訪れる場合,地方から都(京都)に行く場合などのことをいい, 上→下とはその逆を考えればよい。 もっとも時代が下るにつれて,この区別はなくなってきて, 例えば「まかる」が『参上する』といった意になることもある。 「まゐらす」の場合それが1語として用いられるときは 〔謙譲〕の敬語動詞(→『差し上げる』)か, 〔謙譲〕の補助動詞(→『~し申し上げる』となるが, 同じ「まゐらす」でもの場合は, 『差し上げさせる』,『参上させる』となるので注意が必要である。 この見分け方は,いささか乱暴であるが, 〔謙譲〕の敬語動詞「まゐる」の未然形+「す」〔使役〕の場合は そこに「差し上げる(参上する)対象」と「差し上げ(参上)させられる者」と「差し上げ(参上)させる者」 の三者が存在するはずなので,そのあたりからの文脈判断がよいだろう。 なお,〔謙譲〕の敬語動詞「まゐる」の未然形+「す」〔尊敬〕となる場合は, 普通は「まゐらせたまふ」(→『参上あそばされる』)の形になる。 それ以外の 「 まゐく 」, 「 まゐづ 」, 「 まゐでく 」, 「 まうでく 」, 「 まうでく 」, 「 まゐのぼる 」, 「 まうのぼる 」, 「 まかりあかる 」, 「 まかりいづ 」, 「 まかりありく 」, 「 まかりなる 」, 「 まゐらす 」, 「 まゐらす 」, 「 まゐらす 」, 「 まゐらせたまふ 」, 「 まゐりつく 」, については「まゐる」,「まかる」から派生した語なので,1語でも多く知っておくといいだろう。 |
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