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2013年7月16日火曜日

【307】敬語表現⑦まぎらわしい表現「たまふ」「たまはす」「たまはる」「のたまふ」「せたまふ」・・・

【307】敬語表現⑦まぎらわしい表現「たまふ」「たまはす」「たまはる」「のたまふ」「せたまふ」・・・
◎しつこいようですが・・・敬語の3パターンについての復習◎
動詞に敬意を付与するときは・・・・
①その動詞に助動詞「る」「らる」「す」「さす」「しむ」を付ける方法〔Aパターン〕→この場合は〔尊敬〕のみ
②その動詞に補助動詞を付ける方法〔Bパターン〕→〔謙譲〕〔尊敬〕〔丁寧〕すべて表現できる
③動詞そのものを敬意を含んだ別の動詞に置き換えてしまう方法〔Cパターン〕→ただし,「敬意を含んだ別の動詞」には限りがあるのでいつでもできるわけではない

・・・・という3パターンあるということを
これまでしつこく習ってきました。

ところが,これまでにも何度かお話したことですが,
古文(日本語)は英語と違い単語と単語の切れ目が一見して不明なので
単語だけを覚えて用法を覚えるだけで即実践・・・とならないんですよね。

今回は「たま・・ふ」に焦点をあてて例によって整理してみましょう

◎今回登場の敬語◎
「 たまふ ( 給ふ,賜ふ ) 」[ ハ四 ]( ←「 与ふ 」の〔尊敬〕版 )
→『 お与えになる,
『(命令形にして)~しなさい 』

「 たまふ ( 給ふ,賜ふ ) 」[ ハ四 ]( 補助動詞〔尊敬〕
→『 お~になる 』

「 たまふ ( 給ふ,賜ふ ) 」[ ハ下二 ]( ←「 受く」,「飲む」,「食ふ 」の〔謙譲〕版 )
→『 いただく』,『ちょうだいする 』 (ごく稀にある表現)

「 たまふ ( 給ふ,賜ふ ) 」[ ハ下二 ]( 補助動詞〔謙譲〕
→『 (「見る」「聞く」「思ふ」などの知覚動詞の連用形に接続して)~させていただく 』

「 たまはす ( 賜はす ) 」[ サ下二 ]( ←「 与ふ 」の〔尊敬〕版 )
→『 お与えになる 』
(「たまはす」>「たまふ」)

「 たまはる ( 賜る ) 」[ ラ四 ]( ←「 受く 」の〔謙譲〕版 )
→『 いただく 』

「 たまはる ( 賜る ) 」[ ラ四 ]( ←「 与ふ 」の〔尊敬〕版 )
→『 お与えになる 』
(鎌倉時代以降)

「 たまはる ( 賜る ) 」[ ラ四 ]( 補助動詞〔謙譲〕
→『 (連用形,連用形+「て」に接続して)お~になる 』

「 たまはる ( 賜る ) 」[ ラ四 ]( 補助動詞〔尊敬〕
→『 (連用形,連用形+「て」に接続して)~していただく 』
(鎌倉時代以降)

「 せたまふ ( せ給ふ ) 」[ 連語 ]( ←「 「す」〔尊敬〕+補助動詞「給ふ」 )
→『 お~になる 』 (非常に高い尊敬)

「 せたまふ ( せ給ふ ) 」[ 連語 ]( ←「 「す」〔使役〕+補助動詞「給ふ」 )
→『 ~おさせになる 』

「 させたまふ ( させ給ふ ) 」[ 連語 ]( ←「 「さす」〔尊敬〕+補助動詞「給ふ」 )
→『 お~になる 』 (非常に高い尊敬)

「 させたまふ ( させ給ふ ) 」[ 連語 ]( ←「 「さす」〔使役〕+補助動詞「給ふ」 )
→『 ~おさせになる 』

「 たうぶ,たぶ ( 給ふ,賜ふ ) 」[ バ四 ]( ←「 与ふ 」の〔尊敬〕版 )
→『 お与えになる』,『くださる 』

「 たうぶ,たぶ ( 給ぶ,賜ぶ ) 」[ バ四 ]( 補助動詞〔尊敬〕
→『 お~になる(〔尊敬〕) 』

「 たうぶ,たぶ ( 食ぶ ) 」[ バ下二 ]( ←「 飲む」,「食ふ 」の〔謙譲〕版 )
→『 (飲食物を)いただく 』

「 たうぶ,たぶ ( 食ぶ ) 」[ バ下二 ]( ←「 飲む」,「食ふ 」の〔丁寧〕版 )
→『 (飲食物を)いただく 』

「 たうばる,たばる ( 賜る ) 」[ ラ四 ]( ←「 受く 」の〔謙譲〕版 )
→『 いただく 』

「 のたまふ ( 宣ふ ) 」[ ハ四 ]( ←「 言う 」の〔尊敬〕版 )
→『 おっしゃる』,
『(上位の人との対話の中で話し手が上位の人の言葉を)言い聞かせる 』

「 のたうぶ ( 宣ぶ ) 」[ バ四 ]( ←「 言ふ 」の〔尊敬〕版 )
→『 おっしゃる 』

「 のたまはす ( 宣はす ) 」[ サ下二 ]( ←「 言ふ 」の〔尊敬〕版 )
→『 仰せになる』,『おっしゃる 』 (「のたまはす」>「のたまふ」)

「 のたまひあはす ( 宣ひ合はす ) 」[ サ下二 ]( ←「 言ひ合はす 」の〔尊敬〕版 )
→『 相談なさる 』

「 のたまひいだす ( 宣ひ出だす ) 」[ サ四 ]( ←「 言ひ出だす 」の〔尊敬〕版 )
→『 口に出しておっしゃる 』
◎解説◎
非敬語レベルでいえば「与ふ」「受く」「飲む」「食ふ」「言う」・・・だけなのによくまあ仰々しくいろいろあるわ・・・・って感じですが,

まずは・・・
「たまふ」というのがありまして,「与ふ」の〔尊敬〕語です。
対照的に「たまはる」というのがありまして,「受く」の〔尊敬〕語です。
「たまはす」も「与ふ」の〔尊敬〕語で,これは「たまふ」より〔尊敬〕の意が強くなります。


ところが・・・
鎌倉時代以降ですと,「たまはる」も,「与ふ」という意の〔尊敬〕の意をもつようになりました。
またごくごくまれに「たまふ」も,「受く」,「食う」,「飲む」の〔謙譲〕の意があったりします。


また・・・
「たまふ」は他の動詞の下についてその動詞の意の〔尊敬〕の補助動詞にもなり,
「たまはる」は他の動詞の下についてその動詞の意の〔謙譲〕の補助動詞にもなりました。
鎌倉時代以降ですと,「たまはる」にも〔尊敬〕の補助動詞としての役割も追加しました。
一定条件下(知覚動詞に接続・・・等)では「たまふ」には〔謙譲〕の補助動詞としての役割もあったりします。


ところで・・・
〔尊敬〕補助動詞としての「たまふ」ですが,
これまたさらに〔尊敬〕させようとして
「す」〔尊敬〕や「さす」〔尊敬〕を上につけて
「せたまふ」「させたまふ」という《〔尊敬〕+〔尊敬〕》の意の連語もあります。
でもこれについては同じ「す」,「さす」でも〔使役〕の場合もありまして,
この場合の「せたまふ」「させたまふ」は《〔使役〕+〔尊敬〕》の意の連語になるので,要注意です
蛇足ながら,助動詞「る」,「らる」のところでもお話しましたが,
「る」や「らる」を上につけて
「れたまふ」「られたまふ」となった場合の
「る」や「らる」は〔尊敬〕にはならず,
この場合の「れたまふ」「られたまふ」は,
《〔可能or受身or自発〕+〔尊敬〕》の意の連語になるので要注意です。


そしてさらに・・・
本来ならば「言ふ」+「給う」の形で「言ひ給ふ」とでもなるべきものが変化したもので「のたまふ」という〔尊敬〕語があります。
「のたまはす」も「与ふ」の〔尊敬〕語で,これは「のたまふ」より〔尊敬〕の意が強くなります。
「のたまひあはす「のたまひいだす」「のたまふ」から派生したものです。


また一方で・・・
「たまふ」が変化した形に
「たぶ」「たうぶ」というのがあり,
基本的には「たまふ」と同じで,「与ふ」の〔尊敬〕と,
〔尊敬〕の補助動詞となるわけですが,
こちらのほうは「飲む」,「食ふ」の〔謙譲〕やら〔丁寧〕の意味もあります。
同様に,「たまはる」が変化した「たうばる」「たばる」というのがあり,
こちらのほうは〔謙譲〕の補助動詞(→『いただく』)の意のみです。
また同様に「のたまふ」が変化して,
「のたうぶ」というのもあります。

カンタンに感覚的にいってしまえば
〔尊敬〕の敬語動詞,補助動詞「たまふ」があり
〔謙譲〕の敬語動詞,補助動詞「たまはる」がある。
「たまふ」より強い「たまはす」があり,
「たまふ」とほぼ同じ意味っぽい「たぶ」,「たうぶ」があり,
そして少々面倒なのが逆に「たまふ」は〔謙譲〕,「たまはる」は〔尊敬〕の意になったりする。
「たまふ」などから派生した「のたまふ」,「のたうぶ」があり,さらに「のたまふ」より強い「のたまはす」もある。
「のたまふ」から派生したものとして「のたまひあはす」,「のたまひいだす」があります。
上記青枠内を読みながら,それぞれの意味が頭の中に浮かんできたら十分です。

◎「たまふ」が〔謙譲〕の補助動詞になるときの特色◎
①ハ行下二段活用である(〔尊敬〕の場合ハ行四段活用)。
②「思ふ」「覚ゆ」「見る」「聞く」「知る」にしか付かない
③会話文,手紙文にしか用いられない。
④命令形はなく,終止形もほとんどない。

〔尊敬〕の補助動詞の「たまふ」と〔謙譲〕の補助動詞の「たまふ」の識別◎
「たまは」「たまひ」たまふ」は形からハ行四段活用と判断できるので〔尊敬〕
「たまふる」「たまふれ」は形から下二段活用と判断できるので〔謙譲〕
「思ふ」「覚ゆ」「見る」「聞く」「知る」以外についていれば〔尊敬〕
「思う」「覚ゆ」「見る」「聞く」「知る」に「たまへ」が付いている場合
→→「~たまへ」と文末になっているときは〔尊敬〕
→→未然形・連用形接続の助動詞がついているときは〔謙譲〕
→→それ以外は(少々乱暴だけど)たいがいが〔尊敬〕

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