【307】敬語表現⑦まぎらわしい表現「たまふ」「たまはす」「たまはる」「のたまふ」「せたまふ」・・・ |
◎しつこいようですが・・・敬語の3パターンについての復習◎ |
動詞に敬意を付与するときは・・・・
①その動詞に助動詞「る」「らる」「す」「さす」「しむ」を付ける方法〔Aパターン〕→この場合は〔尊敬〕のみ ②その動詞に補助動詞を付ける方法〔Bパターン〕→〔謙譲〕〔尊敬〕〔丁寧〕すべて表現できる ③動詞そのものを敬意を含んだ別の動詞に置き換えてしまう方法〔Cパターン〕→ただし,「敬意を含んだ別の動詞」には限りがあるのでいつでもできるわけではない ・・・・という3パターンあるということを これまでしつこく習ってきました。 ところが,これまでにも何度かお話したことですが, 古文(日本語)は英語と違い単語と単語の切れ目が一見して不明なので 単語だけを覚えて用法を覚えるだけで即実践・・・とならないんですよね。 |
今回は「たま・・ふ」に焦点をあてて例によって整理してみましょう |
◎今回登場の敬語◎ |
「 たまふ ( 給ふ,賜ふ ) 」[ ハ四 ]( ←「 与ふ 」の〔尊敬〕版 ) →『 お与えになる, 『(命令形にして)~しなさい 』 「 たまふ ( 給ふ,賜ふ ) 」[ ハ四 ]( 補助動詞〔尊敬〕 ) →『 お~になる 』 「 たまふ ( 給ふ,賜ふ ) 」[ ハ下二 ]( ←「 受く」,「飲む」,「食ふ 」の〔謙譲〕版 ) →『 いただく』,『ちょうだいする 』 (ごく稀にある表現) 「 たまふ ( 給ふ,賜ふ ) 」[ ハ下二 ]( 補助動詞〔謙譲〕 ) →『 (「見る」「聞く」「思ふ」などの知覚動詞の連用形に接続して)~させていただく 』 「 たまはす ( 賜はす ) 」[ サ下二 ]( ←「 与ふ 」の〔尊敬〕版 ) →『 お与えになる 』 (「たまはす」>「たまふ」) 「 たまはる ( 賜る ) 」[ ラ四 ]( ←「 受く 」の〔謙譲〕版 ) →『 いただく 』 「 たまはる ( 賜る ) 」[ ラ四 ]( ←「 与ふ 」の〔尊敬〕版 ) →『 お与えになる 』 (鎌倉時代以降) 「 たまはる ( 賜る ) 」[ ラ四 ]( 補助動詞〔謙譲〕 ) →『 (連用形,連用形+「て」に接続して)お~になる 』 「 たまはる ( 賜る ) 」[ ラ四 ]( 補助動詞〔尊敬〕 ) →『 (連用形,連用形+「て」に接続して)~していただく 』 (鎌倉時代以降) 「 せたまふ ( せ給ふ ) 」[ 連語 ]( ←「 「す」〔尊敬〕+補助動詞「給ふ」 ) →『 お~になる 』 (非常に高い尊敬) 「 せたまふ ( せ給ふ ) 」[ 連語 ]( ←「 「す」〔使役〕+補助動詞「給ふ」 ) →『 ~おさせになる 』 「 させたまふ ( させ給ふ ) 」[ 連語 ]( ←「 「さす」〔尊敬〕+補助動詞「給ふ」 ) →『 お~になる 』 (非常に高い尊敬) 「 させたまふ ( させ給ふ ) 」[ 連語 ]( ←「 「さす」〔使役〕+補助動詞「給ふ」 ) →『 ~おさせになる 』 「 たうぶ,たぶ ( 給ふ,賜ふ ) 」[ バ四 ]( ←「 与ふ 」の〔尊敬〕版 ) →『 お与えになる』,『くださる 』 「 たうぶ,たぶ ( 給ぶ,賜ぶ ) 」[ バ四 ]( 補助動詞〔尊敬〕 ) →『 お~になる(〔尊敬〕) 』 「 たうぶ,たぶ ( 食ぶ ) 」[ バ下二 ]( ←「 飲む」,「食ふ 」の〔謙譲〕版 ) →『 (飲食物を)いただく 』 「 たうぶ,たぶ ( 食ぶ ) 」[ バ下二 ]( ←「 飲む」,「食ふ 」の〔丁寧〕版 ) →『 (飲食物を)いただく 』 「 たうばる,たばる ( 賜る ) 」[ ラ四 ]( ←「 受く 」の〔謙譲〕版 ) →『 いただく 』 「 のたまふ ( 宣ふ ) 」[ ハ四 ]( ←「 言う 」の〔尊敬〕版 ) →『 おっしゃる』, 『(上位の人との対話の中で話し手が上位の人の言葉を)言い聞かせる 』 「 のたうぶ ( 宣ぶ ) 」[ バ四 ]( ←「 言ふ 」の〔尊敬〕版 ) →『 おっしゃる 』 「 のたまはす ( 宣はす ) 」[ サ下二 ]( ←「 言ふ 」の〔尊敬〕版 ) →『 仰せになる』,『おっしゃる 』 (「のたまはす」>「のたまふ」) 「 のたまひあはす ( 宣ひ合はす ) 」[ サ下二 ]( ←「 言ひ合はす 」の〔尊敬〕版 ) →『 相談なさる 』 「 のたまひいだす ( 宣ひ出だす ) 」[ サ四 ]( ←「 言ひ出だす 」の〔尊敬〕版 ) →『 口に出しておっしゃる 』 |
◎解説◎ |
非敬語レベルでいえば「与ふ」「受く」「飲む」「食ふ」「言う」・・・だけなのによくまあ仰々しくいろいろあるわ・・・・って感じですが,
まずは・・・ 「たまふ」というのがありまして,「与ふ」の〔尊敬〕語です。 対照的に「たまはる」というのがありまして,「受く」の〔尊敬〕語です。 「たまはす」も「与ふ」の〔尊敬〕語で,これは「たまふ」より〔尊敬〕の意が強くなります。 ところが・・・ 鎌倉時代以降ですと,「たまはる」も,「与ふ」という意の〔尊敬〕の意をもつようになりました。 またごくごくまれに「たまふ」も,「受く」,「食う」,「飲む」の〔謙譲〕の意があったりします。 また・・・ 「たまふ」は他の動詞の下についてその動詞の意の〔尊敬〕の補助動詞にもなり, 「たまはる」は他の動詞の下についてその動詞の意の〔謙譲〕の補助動詞にもなりました。 鎌倉時代以降ですと,「たまはる」にも〔尊敬〕の補助動詞としての役割も追加しました。 一定条件下(知覚動詞に接続・・・等)では「たまふ」には〔謙譲〕の補助動詞としての役割もあったりします。 ところで・・・ 〔尊敬〕補助動詞としての「たまふ」ですが, これまたさらに〔尊敬〕させようとして 「す」〔尊敬〕や「さす」〔尊敬〕を上につけて 「せたまふ」,「させたまふ」という《〔尊敬〕+〔尊敬〕》の意の連語もあります。 でもこれについては同じ「す」,「さす」でも〔使役〕の場合もありまして, この場合の「せたまふ」,「させたまふ」は《〔使役〕+〔尊敬〕》の意の連語になるので,要注意です 蛇足ながら,助動詞「る」,「らる」のところでもお話しましたが, 「る」や「らる」を上につけて 「れたまふ」,「られたまふ」となった場合の 「る」や「らる」は〔尊敬〕にはならず, この場合の「れたまふ」,「られたまふ」は, 《〔可能or受身or自発〕+〔尊敬〕》の意の連語になるので要注意です。 そしてさらに・・・ 本来ならば「言ふ」+「給う」の形で「言ひ給ふ」とでもなるべきものが変化したもので「のたまふ」という〔尊敬〕語があります。 「のたまはす」も「与ふ」の〔尊敬〕語で,これは「のたまふ」より〔尊敬〕の意が強くなります。 「のたまひあはす,「のたまひいだす」は「のたまふ」から派生したものです。 また一方で・・・ 「たまふ」が変化した形に 「たぶ」,「たうぶ」というのがあり, 基本的には「たまふ」と同じで,「与ふ」の〔尊敬〕と, 〔尊敬〕の補助動詞となるわけですが, こちらのほうは「飲む」,「食ふ」の〔謙譲〕やら〔丁寧〕の意味もあります。 同様に,「たまはる」が変化した「たうばる」,「たばる」というのがあり, こちらのほうは〔謙譲〕の補助動詞(→『いただく』)の意のみです。 また同様に「のたまふ」が変化して, 「のたうぶ」というのもあります。 |
カンタンに感覚的にいってしまえば |
〔尊敬〕の敬語動詞,補助動詞「たまふ」があり
〔謙譲〕の敬語動詞,補助動詞「たまはる」がある。 「たまふ」より強い「たまはす」があり, 「たまふ」とほぼ同じ意味っぽい「たぶ」,「たうぶ」があり, そして少々面倒なのが逆に「たまふ」は〔謙譲〕,「たまはる」は〔尊敬〕の意になったりする。 「たまふ」などから派生した「のたまふ」,「のたうぶ」があり,さらに「のたまふ」より強い「のたまはす」もある。 「のたまふ」から派生したものとして「のたまひあはす」,「のたまひいだす」があります。 |
上記青枠内を読みながら,それぞれの意味が頭の中に浮かんできたら十分です。 |
◎「たまふ」が〔謙譲〕の補助動詞になるときの特色◎ |
①ハ行下二段活用である(〔尊敬〕の場合ハ行四段活用)。
②「思ふ」「覚ゆ」「見る」「聞く」「知る」にしか付かない ③会話文,手紙文にしか用いられない。 ④命令形はなく,終止形もほとんどない。 |
◎〔尊敬〕の補助動詞の「たまふ」と〔謙譲〕の補助動詞の「たまふ」の識別◎ |
「たまは」「たまひ」たまふ」は形からハ行四段活用と判断できるので〔尊敬〕。
「たまふる」「たまふれ」は形から下二段活用と判断できるので〔謙譲〕。 「思ふ」「覚ゆ」「見る」「聞く」「知る」以外についていれば〔尊敬〕。 「思う」「覚ゆ」「見る」「聞く」「知る」に「たまへ」が付いている場合 →→「~たまへ」と文末になっているときは〔尊敬〕。 →→未然形・連用形接続の助動詞がついているときは〔謙譲〕 →→それ以外は(少々乱暴だけど)たいがいが〔尊敬〕。 |
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