【302】敬語表現②敬語の種類,誰から誰への敬意? |
◎敬語の種類◎ |
これはだれでも知っているでしょう。 |
〔尊敬〕 |
〔謙譲〕 |
〔丁寧〕 |
以上3種はだれでも知っていますが・・・さてここからが問題,そもそも〔尊敬〕だの〔謙譲〕だの〔丁寧〕だのって具体的にどういう定義分けするの?となるとかなり曖昧になってくる。ここではべつに難しい文法議論をするつもりはないので,この3種の意味あいの違いを次のように理解しましょう。 |
◎誰への敬意?◎ |
どんな敬語にも必ず,「誰から誰への敬意」かというものが内包されています。最初のうちはこれを丁寧に吟味することが敬語を理解する上で重要となります。最初のうちは面倒でもそれを怠らないでください。まずは「誰に」対する「敬意」かを考えてみましょう。 |
例えば次のような文があるとします。 |
①太郎,花子に文渡す。
②太郎,花子に文渡し給ふ。 ③太郎,花子に文渡し奉る。 ④太郎,花子に文渡し侍り。 |
詳しいことは後述するとしてここにある「給ふ」は〔尊敬〕, 「奉る」は〔謙譲〕,「侍り」は〔丁寧〕を意味する敬語(補助動詞)です。 |
①は「太郎は花子に手紙を渡す」,
②は「太郎は花子に手紙をお渡しになる」, ③は「太郎は花子に手紙を渡し申し上げる」, ④は「太郎は花子に手紙を渡します」とそれぞれ訳されます。 |
古文読解はとりあえず「訳」せればOKといえばそうなのだけど,これだけじゃなんかよくわかりませんね。そこで・・・
②~④に使われるそれぞれの敬語が「誰に」対する「敬意」かを考えてみると・・・ |
結論から言えば
②の「給ふ」は太郎に対する敬意を表しており, ③の「奉る」は花子に対する敬意を表しており, ④の「侍り」はこの文を読む読み手(聞き手)・・・つまり要するにここではこのブログを読むあなた自身に対する敬意を表しているわけです。 |
そして・・・
敬語とは人の動作を表す動詞につくもの(あるいは動詞そのもの)なわけですが, ②の場合手紙を書くのは「太郎」であり,「太郎」が「渡す」の主語で,
③の場合手紙を渡す相手は花子であり,花子がこの文の目的語で,
④のように
とりわけ,〔尊敬〕と〔謙譲〕の違いをよく理解してください。 |
◎誰からの敬意?◎ |
これは一言で言えば簡単です。
敬語は常に「話者」からの敬意を表します。 |
②太郎,花子に文渡し給ふ。
③太郎,花子に文渡し奉る。 ④太郎,花子に文渡し侍り。 ⑤太郎が従者曰く,太郎,花子に文渡し給ふ。 |
当然ながら②の「給ふ」,③の「奉る」,④の「侍り」は私からの敬意となり,
⑤は「太郎,花子に文渡し給ふ。」と言った太郎の従者からの敬意となります。 |
◎誰から誰への敬意?◎ |
ここまでのことをまとめてみます。
②太郎,花子に文渡し給ふ。 ③太郎,花子に文渡し奉る。 ④太郎,花子に文渡し侍り。 ⑤太郎が従者曰く,太郎,花子に文渡し給ふ。 |
②の「給ふ」は私から太郎への敬意, ③の「奉る」は私から花子への敬意, ④の「侍り」は私からあなた(読者のみなさま)への敬意, ⑤の「給ふ」は太郎の従者から太郎への敬意 を表しています。 |
◎ミックス補助動詞敬語は〔謙譲〕,〔尊敬〕,〔丁寧〕の順番で!◎ |
もしも源氏物語に
光源氏,紫の上にラブレター渡し給ひ侍り。 なんて表現があったとして大学入試で「この文の『給ひ』,『侍り』は誰から誰への敬意か?」なんて問題が出題されてそこには1000人の受験生が悪戦苦闘していたとします(ありえないだろうけど,勉強は面白くしないと!)。 この場合 ⑥光源氏,紫の上にラブレター渡し給ふ。 ⑦光源氏,紫の上にラブレター渡し侍り。 ・・・の2つの文に分けて考えることになります。 ⑥の「給ふ」は当然のことながら源氏物語の作者である紫式部から光源氏への敬意となり, ⑦の「侍り」は同じく紫式部から読者(つまりはそこで悪戦苦闘している1000人の受験生たちを含みます)への敬意(!)ということになります。 |
少し脱線したけど,「渡し給ふ」と「渡し侍り」をミックスして「渡し給ひ侍り」なんていう場合もある(というかむしろそういう場合のほうが多い)ことをここではお話しますが・・・・
最初の太郎と花子の例をとると ②と③をまとめると ⑧太郎,花子に文渡し奉り給ふ。 となりこの場合「渡し給ひ奉る」とは絶対になりません。 ②と④をまとめると ⑨太郎,花子に文渡し給ひ侍り。 となりこの場合「渡し侍り給ふ」とは絶対になりません。 ③と④をまとめると ⑩太郎,花子に文渡し奉り侍り。 となりこの場合「渡し侍り奉る」とは絶対になりません。 ②と③と④を全部まとめると ⑪太郎,花子に文渡し奉り給ひ侍り。 このように1つの動詞に複数の敬意を表す補助動詞をつける場合その順番は必ず 〔謙譲〕,〔尊敬〕,〔丁寧〕 の順番となります。 |
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